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はじめに |
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| ついつい食べ過ぎたり飲みすぎたり、あるいは悩み事が多くて胃のあたり(心窩部・上腹部)が痛くなる・・・という経験をされた方も多いのではないでしょうか? 胃の痛みを生ずる代表的な病気の一つが胃潰瘍で、皆さんもしばしば耳にする病名かと思います。さて、胃潰瘍とはどのような病気で、なぜできるのでしょうか? 今回は、胃潰瘍の原因に深く関係しているピロリ菌のこと も含めて紹介させていただきたいと思います。 |
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胃の構造と働き |
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胃は「胃袋」とも呼ばれているように袋状の形をしており、入り口側から噴門・胃底部・胃体部・前庭部・幽門といった部位から成り立っています。胃には食物を消化するという重要な働きがあります。食物が胃に入ると噴門から幽門に向かって蠕動運動と呼ばれる収縮運動が起こり、このとき胃壁(正確には胃壁の最も内側にある胃粘膜)から胃酸や消化酵素が分泌され、蠕動運動で食物がすりつぶされます。消化酵素によって蛋白質が分解され、消化された食物が粥状になると幽門が開いて少しずつ十二指腸に運ばれていきます。
胃には他に、食物と一緒に入り込んだ細菌を胃酸で殺菌したり、身体にとって悪い物質を嘔吐して排除する働きもあります。 |
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胃潰瘍ってなに? |
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| 胃粘膜は胃酸や消化酵素を分泌すると同時に、消化作用のある胃酸や消化酵素から自分自身の胃壁を守るための粘液も分泌しています。 |
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通常、胃酸と胃粘液の分泌はバランスがとれていますが、種々の原因でこのバランスが崩れると胃酸が多すぎる状態となります。その結果、自身の胃酸が胃壁を消化し始めて傷つけ、胃壁が内側から欠けた状態になる、すなわち潰瘍ができると考えられています(このため胃潰瘍は十二指腸潰瘍とともに消化性潰瘍とも呼ばれています)。胃壁は内側から粘膜・粘膜下層・固有筋層・漿膜下層・漿膜といった部分で構成されていますが、一般的には表面の粘膜だけが欠損する状態を「びらん」と呼び、これより深い部分(粘膜下層以深)まで欠損した状態を「潰瘍」と呼んでいます。
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| また、十二指腸壁も胃壁と似た構造で、十二指腸潰瘍もやはり胃酸と粘液の分泌の不均衡により生ずるものと考えられています。 |
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胃潰瘍はどうしてできるの? |
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それでは、どのような理由で胃酸と胃粘液の分泌のバランスが崩れるのでしょうか? 主な原因としては、
| 1) |
肉体的・精神的ストレスにより胃酸や粘液の分泌を調節している自律神経やホルモンが影響を受ける。 |
| 2) |
強烈な香辛料を含む刺激性の食物や大量のアルコールなどを過度に摂取することにより胃粘膜が直接物理的刺激を受ける。 |
| 3) |
喫煙(胃酸の分泌を促し胃粘膜の血流量を減らす作用により胃潰瘍を生じやすくさせると考えられています) |
| 4) |
解熱・消炎鎮痛剤や副腎皮質ステロイドなどの薬剤を服用することにより(これらの薬剤の副作用として)胃粘膜が障害を受ける。 |
などが古くから考えられてきました。もちろん、これらの原因が一つでもあれば必ず潰瘍ができるということではありません。実際には、様々な胃壁に障害を与える要素(攻撃因子)と胃粘膜を守る働きを保つ要素(防御因子)が複雑に関係しあって、そのバランスが崩れたときに胃潰瘍が生ずるものと考えられています(この理論は、シェイという人が提唱した「バランス(天秤図)説」と言われています。
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ピロリ菌ってなに? |
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最近「ピロリ菌」という言葉をよく耳にするようになりました。ここで「ピロリ菌」と胃炎や胃潰瘍との関係についてお話します。胃の中はpH(ペーハー)1〜2というとても強力な胃酸の働きで一定以上の酸性に保たれており、この環境の中で食物の消化や食物と一緒に体内に取り込まれた有害な細菌の殺菌が行われており、胃の中には細菌は存在しないものと以前は考えられていました。
ところが、1982年にオーストラリアの病理学者ウォーレンと内科医マーシャルの2人が、胃炎や胃潰瘍の患者さんの胃粘膜表面(粘液層の中)にらせん上の細菌が高率に存在していることを明らかにしました。この細菌はその後「ヘリコバクター・ピロリ」と名付けられ、慢性胃炎や胃潰瘍・胃癌との関係が研究されるようになりました(ちなみにウォーレンとマーシャルのお二人はピロリ菌の発見により昨年のノーベル生理学・医学賞を受賞されています)。 |
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現在では、多くの胃の病気の原因にピロリ菌が関係していると考えられています。ピロリ菌は、主に胃粘膜の防御機能や免疫機能が未熟な小児期に経口的(糞便などに汚染された水から口へ、あるいは口から口へ)に感染し、排除されることなく人間の成長とともに持続的に胃粘膜表面に感染し続けます。ピロリ菌に感染した胃は数十年の経過で、慢性胃炎(非萎縮性胃炎から萎縮性胃炎へと進みます。「萎縮」とは胃粘膜の炎症が長く続くことにより粘膜が薄くなっている状態を指します。ピロリ菌が発見されるまでは胃粘膜の萎縮は加齢による変化とも考えられていました)へと進展してゆきます。そして、萎縮性胃炎の粘膜に種々の攻撃因子や防御因子などが影響して胃潰瘍の多くが生ずるものと考えられています。
また、胃潰瘍のほかにも、非萎縮性胃炎を背景として十二指腸潰瘍や未分化型胃癌などが、萎縮性胃炎がさらに進んだ腸上皮化成という状態を背景として分化型胃癌などの病気が発生しやすくなるものと考えられています。 |
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ただしこの考え方はピロリ菌と胃の病気との関係をきわめて簡単に示したものであって、ピロリ菌に感染している胃すべてに胃潰瘍や胃癌などができることでは決してありません(また、すべての胃潰瘍にピロリ菌が関係しているわけでもありません)。実際にはピロリ菌の持続感染に加えて、個人個人の素因や環境因子など様々な要因が複雑に関係して初めて胃潰瘍などの病気が発生することをご理解いただきたいと思います。
日本人の中高年(40歳以上)の人の約70〜80%がピロリ菌に感染していますが、そのなかで胃潰瘍を発症するのは約2〜3%、胃癌を発症するのは0.5%程度と言われています。一方、40歳以下では年齢が低くなるほどピロリ菌の感染率も低くなっており、これは戦後に衛生環境が整備され経口感染の機会が減少したことによるものと推測されています。また、ピロリ菌が成人に感染することは稀であり、感染しても一過性で持続感染はしにくいものと考えられています。
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胃潰瘍の診断 |
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潰瘍などの胃の病気を診断するためには、X線検査(バリウムを服用する胃透視)か内視鏡検査(胃カメラ)を受けていただくことになります。内視鏡検査は胃粘膜を直接観察することが可能で、検査と同時に粘膜組織の一部を採取して顕微鏡検査に提出し悪性腫瘍との鑑別ができるなどの利点があります。「内視鏡は苦しい」というイメージもあるかもしれませんが、機器や麻酔法も進歩しており、胃の検査を受ける際はぜひ内視鏡検査を第一選択としていただくことをお勧めします(胃透視で異常が見つかったら、結局は内視鏡検査を受けなければなりません)。
ここで、胃炎や胃潰瘍の内視鏡写真を見てみましょう。ピロリ菌に感染していない正常の胃(写真[1])では、粘膜に小さな赤い点状の血管が整然と並んでいるのが観察されます。
ところが、ピロリ菌に持続感染している胃では、長期間続く炎症によって胃粘膜が薄くなり、粘膜の奥にある網状の血管が見えるようになってきます(写真[2])
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| (正常の胃・写真[1]) |
(萎縮性胃炎の状態・写真[2]) |
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左の写真[3]のように、粘膜が欠けて胃壁に穴を掘ったように見えるのが胃潰瘍です。一般的に、胃潰瘍に限った症状というものはありません。腹痛(主に空腹時の心窩部・上腹部痛)や胸やけ、吐き気・嘔吐、食欲不振などがよくみられる症状ですが、無症状の潰瘍も少なくなく、検診で初めて胃潰瘍を指摘される方もおられます。 |
| (胃潰瘍の状態・写真[3]) |
潰瘍の中には出血するものもあり、コーヒー残渣様の黒褐色の血を吐いたり(吐血)、黒色のコールタール状の便が出たり(タール便)することがあります。(写真[4])は出血が止まって表面に血液の固まりが付着している潰瘍、(写真[5])は胃壁の動脈が切れて出血が続いている潰瘍です。出血量が多くなると血圧が低下しショック状態となり、全身状態が悪化して命に関ることにもなりかねません。
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| <写真[4]> |
<写真[5]> |
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また、きわめて激しい腹痛を伴うときは潰瘍が進んで胃壁に穴が空く(この状態を「穿孔」と呼びます。写真[6]では潰瘍の中に一段と深い穴が認められます)こともあります。
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| <写真[6]> |
ピロリ菌の有無を診断するための検査法にはいくつか種類あります。内視鏡検査の時に採取した胃の組織を用いる検査法としては、(1)迅速ウレアーゼ試験、(2)鏡検法、(3)培養法があり、内視鏡を用いない方法には、(4)血液や尿中のピロリ菌に対する抗体を測定する方法、(5)尿素呼気試験、(6)便中のピロリ菌抗原の有無を調べる方法、があります。これらのいずれかの検査を用いてピロリ菌感染の判定を行いますが、それぞれの検査には長所・短所があることから、複数の検査を組み合わせてより確実に感染の判定を行う場合もあります。 |
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胃潰瘍の治療 |
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胃潰瘍を治療する主な目的は、(1)潰瘍に伴う症状の改善、(2)潰瘍の治癒促進、(3)潰瘍の再発予防、にあります。かつては手術が盛んに行われていた時期もありましたが、薬剤や内視鏡治療手技が進歩したこともあり、現在では薬物療法が主体となっています。
潰瘍を縮小・治癒させるために、薬剤は「胃酸分泌抑制薬」と「防御因子増強(胃粘膜保護)薬」を組み合わせて処方します。また、症状を和らげるために「消化管運動機能改善薬」などを追加することもあります。出血している潰瘍の場合は、速やかに内視鏡検査を行って出血を止めることが必要となります。(写真[7]) |

<内視鏡検査・写真[7]> |
内視鏡でも止血できない場合や穿孔した潰瘍、あるいは再発を繰り返して幽門部(胃の出口)が狭くなった場合は手術が必要になることもあります。
潰瘍の再発はピロリ菌が感染している胃に多くみられることから、現在では胃潰瘍の再発予防としてピロリ菌を除去する(除菌)治療が行われるようになりました。日本で保険適用となっている除菌法は、プロトンポンプインヒビターという強力な胃酸分泌抑制剤と2種類の抗生物質(アモキシシリンとクラリスロマイシン)を1週間服用していただくものです。この治療により約90%の患者さんでピロリ菌が除菌され、潰瘍の再発率がとても低くなることが明らかになっています。
ピロリ菌が除菌できなかった場合やピロリ菌を認めない胃潰瘍の再発予防のために、「胃酸分泌抑制薬」と「防御因子増強薬」の量を減らしながら継続して服用していただくこともあります。
また、胃潰瘍の発症にはピロリ菌だけでなく、肉体的・精神的ストレスや食生活、喫煙なども大きく関係しています(このため、胃潰瘍は生活習慣病としての側面もあります)。再発予防のためには薬剤だけに頼るのではなく、ストレス解消・規則正しい生活・バランスのとれた食生活・禁煙など、生活習慣を整えることもとても重要です。 |
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おわりに |
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「快食、快眠、快便」は健康の基本です。胃の調子が悪いのかな・・・と思われたら、躊躇せずに医療機関を受診して内視鏡検査を受けることをお勧めします。また、ピロリ菌の除菌治療に関しては、薬剤の副作用や除菌治療後に食道・胃粘膜障害などが生ずる場合もあり、消化器内科医に相談されることをお勧めします。 |
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