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2006年8月号
Vol.50 食べることの障害と
リハビリテーション
リハビリテーション部技士長
言語聴覚科主任

言語聴覚士 佐藤 厚 先生

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(医)愛広会 新潟リハビリテーション病院
新潟市木崎761
リハビリテーション部技士長・言語聴覚科主任 言語聴覚士
佐藤 厚
http://www.iryou-hiroba.com/detail/10377/
■プロフィール
生年月日 昭和37年7月24日
出身 新潟市
学歴 明星大学人文学部心理教育学科心理学専修卒業
経歴 1988年〜2000年 (医)嵐陽会 三之町病院
2000年〜 新潟リハビリテーション病院
資格など 言語聴覚士
趣味 野球・釣り
著書 翻訳:
 認知神経心理学・第12章:計算
 (監訳:相馬芳明・本田仁視)
 医学書院,1996
編集・執筆:
 言語障害と画像診断
 (監修:栢森良二・編著:伊林克彦)
 西村書店,2001
所属学会 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会
日本神経心理学会
認知神経科学会
新潟医療福祉学会
研究経歴 論文
Broca失語と超皮質性運動失語の特徴を兼ね備えた一例;神経内科,45-1,33,1996
発表
変形性頚椎症が嚥下困難の一因となっていたと思われる症例;第22回日本聴能言語学会学術講演会 1996,5,31
被殻出血による失語症の臨床像;第23回日本神経心理学会総会 1999,9,10

   



はじめに  〜 摂食・嚥下障害とは? 〜
 
 人間にとって、食事をするということは単に栄養を摂取するということに留まらず、家族や他者との団らん、コミュニケーション、よりおいしいものを食べたいという欲求を満たすなど、人生の中で大いなる楽しみとして存在しています。そんな楽しみが、障害を負うことで奪われてしまい、もう二度と口に食べ物を入れることができないとしたら・・・。このような「食べる」という行為が何らかの原因でうまくできなくなることを「摂食・嚥下障害」と言います。「摂食」とは食べること、食事をとること全般をさし「嚥下」とは摂食という行為の中の飲み込むこと、飲み込む動作のことです。この障害を扱うことで大切なのは嚥下障害のみならず、広い意味での摂食を視野に入れた視点が必要です。
 摂食・嚥下障害には様々な原因と病態があります。一旦食べられないと診断された方でも、しっかりとした診断とリハビリテーションを行うことで再び口からものを食べることができることもあります。今回は摂食・嚥下障害についての知識と、どのようなリハビリテーションが行われているか、更に、摂食嚥下障害によって引き起こされる誤嚥性肺炎などの危機的状態を、どのようにして防ぐことができるかについてお話をしたいと思います。
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「食べる」という行為
 
 摂食と言う行為は「認知期」「準備期」「口腔期」「咽頭期」「食道期」という5期に分けることができます。

認知期 私たちが食べ物を目前にしたとき、その食物の性質をあらかじめ予知し、それが口に運ぶべき食べ物だということを認識し、手を使って口に運ぶまでの段階。
準備期 口元まで移動してきた食べ物を唇や歯を使って取り込み、あるいは吸い込んだりして飲み込みやすい形状まで咀嚼し、舌の上にまとめてのどへ送り込む準備をする段階。
口腔期 準備期にまとめられた食べ物を口の中から舌を使って咽頭、つまりのどへ送り込む段階。口の中からちょうどのどちんこのあたりへ送り込むまでと言っていいでしょう。
咽頭期 口腔から咽頭へ送られた食べ物が咽頭を通過し、食道へ吸い込まれる直前までの段階。ここは食道と肺へ向かう気管とが道別れする部分を含むため、摂食・嚥下という行為の中で非常に重要な段階です。
食道期 食べ物が咽頭から食道に吸い込まれて、胃へと到達するまでです。食道の動きが不十分だと、食道の途中に食べ物が残り、横になったときに逆流することがありますので、注意が必要です。

 ではここで、正常な嚥下のビデオレントゲン映像を御覧頂きたいと思います。


 このように、正常な嚥下は非常に短い時間で食べ物が各器官を通過するため、それらの器官の微妙なタイミングの協調が必要になります。これらの協調運動が少しでもずれると、気管に食べ物が入り込む「誤嚥」という状況に陥ってしまうのです。
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摂食嚥下障害の原因
 
 さて、摂食・嚥下障害とはどんな原因で生ずることがあるのでしょう。
 その原因は下記の図のように、器質的障害と機能的障害に分けることができます。


 これらの原因による「誤嚥」という現象は、嚥下造影という検査で造影剤の気道(喉から肺へつながる道)への流れ込みとしてはっきりと捉えることができます。 


写真1のように、この前方に流れ込んでいる黒い筋が、食道でなく気道に誤嚥された造影剤です。
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摂食・嚥下リハビリテーション
 
 これらの摂食・嚥下障害に対して、どのようなリハビリテーションがなされるのでしょう。


 上の図のように、摂食・嚥下リハビリには、関係する様々な職種が患者さんとその御家族を中心として協力し合う、チームアプローチが重要と言われています。先ほどもふれましたように、食べるという行為のリハビリには食べ物の認識から姿勢の保持、食事動作や食器の工夫、口の中や歯の健康を保つこと、そして必要な部分の動作介助やむせにくい食事の提供、御家族の理解と支えなど、多くの仕事が必要になってくるのです。
 その中でも、今回はやや狭い意味での飲み込みそれ自体にアプローチするための方法の一部を、間接的リハビリテーションと直接的リハビリテーションという分け方をして御紹介します。

【1.間接的リハビリテーション】
 間接的リハビリテーションとは、実際に食べ物を口にすることなく飲み込みの練習をすることです。主な方法として、より自然な状態で摂食・嚥下を行うための座り姿勢作りや、口腔の衛生と機能を保つ口腔ケア、関係する様々な筋肉の状態をよくする為のストレッチなど徒手的治療、咽頭を刺激して嚥下反射を誘発する訓練、そして呼吸訓練などが挙げられます。
 悪い姿勢をとっているために上手に食べられないケースはかなり多く、そういった場合はしっかりと筋肉を柔らかくし、座り姿勢をよくしてあげることで食べられるようになることも少なくありません。写真を御覧頂きますが、写真(2)のように背中と首が突っ張って口も開いてしまっている方が、リハビリを行うことで写真(3)のような良い姿勢になり、それだけで食べられるようになったケースもあります。


【2.歯の健康と口腔ケアの重要性】
 食べ物の入り口としての歯の健康は摂食・嚥下にとって重要なのは言うまでもありません。
もう一つ重要なポイントは口の中を常に衛生的な状態に保つための口腔ケアです。口の中に雑菌が多い状態で誤嚥が生じた場合、それが肺炎に至ってリハビリの大きな妨げになるばかりでなく、生命の危険に至ることも少なくありません。口腔内を清潔に保つことで、多少誤嚥が生じてもこの誤嚥性肺炎が大変少なくなることが知られています。
口腔ケア用品はこの写真(4)のようなスポンジ、綿棒、ブラシや消毒液などをはじめとして様々なものが市販されており、それを状態に応じて使用することで雑菌の少ない口腔の状態を保つことが可能です。

【3.直接的リハビリテーション】
 次に直接的リハビリテーションについて説明します。直接的リハビリテーションとは、摂食に際しての状況を整える、あるいは制限を加えた上で実際に食べ物を食べながら治療を行うことです。食事の環境を整える、食事の内容を工夫する、必要な部分の介助をするなど、様々な方法で可能な限り誤嚥の危険がないようにして食事をすることで実際に摂食・嚥下器官の動きを引き出していきます。
 直接的リハビリテーションを行う上で大きな役割を果たすのが食事の形状です。主食はおかゆにする、少しミキサーにかけるといったことが可能ですし、副食はやや細かく刻んだものや、ペースト状にしてやや形を整えたソフト食など、多様なものが工夫されています。特に嚥下反射が遅れがちな方に対しては、水やお茶などの飲み物にトロミ材を使用してトロミをつけ、咽頭への落下速度を遅くして誤嚥を防ぐという方法がとられます。
 現在は摂食・嚥下障害を持つ方に対し、市販の嚥下補助食品が多く開発されてきており(写真(5))、様々な味の食べ物を食べながらリハビリをしたり、日常の食事を楽しむことができるようになっています。
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最後に  〜 食べるという幸せ 〜
 さてこのように、現代は食べるという力を取り戻すために様々な診断、リハビリテーションの技術が発達してきました。しかしながらその歴史はまだ浅く、まだまだ本当は食べられる力を有しているにもかかわらず、食べることができずにいる方がいるというのが現状です。摂食嚥下障害に取り組んでいる医療・福祉施設は多くなっていますので、お悩みの方はぜひ一度お近くのリハビリテーション施設、歯科口腔外科などにご相談されてみてはいかがでしょうか。
 人間が生活しているところには必ずそれぞれの食事場面があり、団らんがあります。障害を持った方でも、家の明かりの中で楽しく笑い、おいしい料理を味わうという幸せをぜひ取り戻していただけるように頑張っていきたいと思っています。
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