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2007年8月号
Vol.62 いびきの治療最前線

いびき診療センター長 河野 正己


先生写真
■プロフィール
生年月日 昭和29年7月31日
出身 長野県中野市
学歴
昭和55年 新潟大学歯学部歯学科卒業
昭和59年  新潟大学大学院歯学研究科修了
歯学博士
(頸動脈小体の化学受容器反射に関する呼吸生理学の研究)
経歴
昭和59年 新潟大学歯学部附属病院
口腔外科学第一講座 助手
平成??年 同 講師
平成12年 日本歯科大学新潟歯学部附属病院
いびき診療センター 副センター長
平成14年 同 センター長
平成19年 日本歯科大学新潟病院
いびき診療センター(改称)
センター長
平成16年〜 神奈川歯科大学
生体管理医学講座客員教授
平成12年〜 厚生連刈羽郡総合病院
睡眠外来 非常勤歯科医師

 

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日本歯科大学新潟病院
〒951-8580 新潟市中央区浜浦町1-8
いびき診療センター長 河野 正己
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■プロフィール
資格など
日本口腔外科学会専門医
日本歯科麻酔学会認定医
日本睡眠学会睡眠医療認定歯科医師
日本睡眠学会評議員
日本睡眠歯科学会理事
睡眠呼吸障害研究会 世話人
北日本睡眠研究会 世話人
NPO法人SRアカデミー理事
NPO法人新潟睡眠障害を考える会理事
趣味 船旅
著書 いびき症三兄弟
睡眠時呼吸障害Update
医学の歩み別冊医学の歩み別冊
所属学会 日本睡眠学会(評議員)
日本睡眠歯科学会(理事)
日本口腔外科学会(専門医)
日本歯科麻酔学会(認定医)
研究内容
頸動脈小体の化学受容器反射に関する呼吸生理学の研究
手術後の呼吸・嚥下障害の研究
人工顎関節の開発
睡眠時無呼吸症候群の発生にかかわる顎顔面形態異常に関する研究
睡眠時無呼吸症候群とブラキシズムに関する研究
睡眠時無呼吸症候群の治療ガイドラインに関する研究
口腔温を指標とした睡眠覚醒リズム障害に関する研究



はじめに
 

 いびきは助けを求める叫び声といわれますが、なぜそんなに怖いものなのでしょうか?
まず最初のキーワードは動脈硬化、高死亡率、様々な合併症です。

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このグラフは、いびきで悩んで来院した患者さんの頸動脈エコーの結果です。50歳以上を対象に222名を調べましたところ、なんと84名の方、すなわち37.8%の方に動脈硬化が認められました。

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動脈硬化が進むと心筋梗塞を起こしやすくなります。この図は、1990年にランセットという雑誌に報告されたものです。

心筋梗塞の危険因子とオッズ比が書かれております。オッズ比とは、その因子がある場合とない場合とを比較して何倍くらい心筋梗塞が発症するかを示す数値です。喫煙や高血圧や肥満は心筋梗塞の危険因子として有名ですが、それぞれのオッズ比は11.1倍、7.8倍、7.1倍です。上の無呼吸指数が5.3以上というのは、睡眠時無呼吸症候群に相当するいびき症の場合ですが、そのオッズ比はなんと23.3倍にも達します。23.3倍ということは、心筋梗塞の方が24名いるとしたら、たった1名を除いて23名はすべて睡眠時無呼吸症候群だということです。下の無呼吸指数1.8以上5.3未満というというのは、睡眠時無呼吸症候群の予備群に相当するいびき症ですが、それでもオッズ比が2.2倍もあります。
これはいびき症を治療しなかった場合の生存率を示すグラフです。

左側はすべての年齢層での結果ですが、9年間におよそ3割の方が亡くなっております。右側は50歳以上でかつ重症な人の場合ですが、同じく9年間でおよそ5割の方が亡くなられました。
死因は心筋梗塞が最も多く、脳梗塞や交通事故が続きます。

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いびき症に関連する合併症
 

ここまで心筋梗塞に注目してきましたが、次にそれ以外の合併症についてお話いたします。

動脈硬化により心筋梗塞や脳梗塞の危険が増すことは前に述べましたが、その他に高血圧症や糖尿病の原因になることがあります。また、肝臓では、ナッシュと呼ばれる非アルコール性脂肪肝炎の引き金となって肝硬変に至ることがあります。胃や食道では、無呼吸に伴う食道内圧の亢進にて胃液が食道を伝わって喉にまで流れ出ることがありますが、これが繰り返されることによりガードと呼ばれる胃食道逆流症となり、逆流性食道炎や食道のバレット腺がん(食道がんの一種)を引き起こすことがあります。妊娠中の女性に発病しますと、母体には妊娠性高血圧症、胎児は発育が障害され流産や未熟児の危険が生じることがあります。小児では乳幼児突然死症候群の危険のほか、低身長や胸郭が変形して胸の中央が窪んだ漏斗胸の原因になることがあります。

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「いびき症」はどんな人が危ない?
 

では、どんな人がいびき症になりやすいのでしょう?
キーワードは肥満とロングフェースです。

呼吸は鼻や口から入って喉に流れて行きますが、舌や軟口蓋が呼吸の通過を障害しますといびきや無呼吸が起きます。

この図のように舌が垂れ下がって気道が狭くなるといびきが起こり、軟口蓋が気道の隙間に吸い込まれて無呼吸になります。肥満によって舌に内臓脂肪が沈着するほどいびきや無呼吸は起きやすくなります。舌の肥大以外にもうひとつ原因があります。それが、ロングフェイス症候群です。軟口蓋は上あごにぶら下がっており、舌は下あごにぶら下がっております。この上あごや下あごが後ろに下がっていると気道は狭くなり、いびきや無呼吸が起きやすくなります。

このグラフの縦軸は肥満の程度を、そして横軸はロングフェイスの程度を表します。斜めの線は多変量解析という統計処理で得られたもので、肥満が強くなるほど、ロングフェイスの傾向が強くなるほど、無呼吸の程度は悪化していびき症が重症となることを示しております。

さらに理解を深めていただくように、ロングフェイスタイプの顔つきとショートフェイスタイプの顔つきのイラストとレントゲンを示します。

ロングフェイスタイプは左側で、ショートフェイスタイプは右側です。レントゲンからロングフェイスタイプは細くて長い気道、ショートフェイスタイプは太くて短い気道を観察できます。イラストに示しますように、ロングフェイスタイプの代表は弥生人、ショートフェイスタイプの代表は縄文人です。
では、どのように診断するのでしょうか。

この図は睡眠ポリグラフといい、一晩かけて行う検査のひとコマです。脳波、眼球運動、筋電図、心電図、いびきの音、口と鼻の気流、胸と腹の呼吸運動、酸素飽和度などを検査します。@と示したのは、無呼吸発作です。3分の間に繰り返し4回の無呼吸があり、無呼吸の合間のわずかな時間に呼吸をしているのがわかります。無呼吸によって起こる脳波の異常はAですが、これは微小覚醒反応という睡眠障害です。繰り返し起こる微小覚醒反応によって睡眠が継続できなくなるため、浅くて途切れ途切れの質の悪い睡眠になってしまいます。無呼吸による酸素不足とそれによる不整脈はBで示してあります。また、Cはクレンチングという音の出ない悪質な歯ぎしりです。これによって、詰めた入れ歯が壊れたり、歯周病や顎関節症を引き起こします。このクレンチングは必ず無呼吸発作に伴って生じますので、無呼吸の治療で解決します。
睡眠ポリグラフの結果からいびき症を睡眠時無呼吸症候群、上気道抵抗症候群、単純いびき症に分類します。

重症な睡眠時無呼吸症候群は呼吸障害も睡眠障害もある場合です。上気道抵抗症候群は呼吸障害はほとんどありませんが睡眠障害が認められる状態です。単純いびき症は無呼吸も睡眠障害もありませんが、放置するといずれ重症化してしまいます。
単純いびき症が睡眠時無呼吸症候群に進行する過程には男女に差があります。男性は比較的早期に発病して徐々に悪化する場合が多いのですが、女性はなかなか発病しないで、更年期を迎え女性ホルモンが低下すると急に増悪する傾向があります。更年期前でも妊娠する毎に一時的に悪化しますが、出産後に元の体重に戻れば軽快します。ただ、出産後にも体重が戻らない人はそのまま発病してしまうこともあります。

 

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いびき症の治療について

次に治療について説明します。キーワードは“人工呼吸装置”、“マウスピース”と“手術”です。

これはシーパップという人工呼吸装置です。

手に抱えた箱型の装置で風を起こし、その風を鼻マスクで鼻に吹き付ける方法です。治療効果は絶大ですが、治療費が高価なのがデメリットです。

一方、マウスピースですが、治療効果はシーパップに劣りますが、日本での治療費は米国の10分の1というメリットがあります。

手術方法にはいくつかありますが、代表的なものを示します。

この手術は軟口蓋手術といい、弛んだ軟口蓋やのどちんこを切って引き締まった状態にする方法です。歯科では健康保険が効きますので治療費は高くありません。

このイラストは、上あごと下あごを切って前方にずらして扁平で長い顔つき、すなわちロングフェイスを改善する手術です。こちらは非常に効果が大きく重症な人にも適用できます。

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最後に・・・
 

いびき症の治療でもまだ十分解決されてなく課題となっていることを最後に述べます。キーワードは治療費と残遺眠気です。
重症な方は人工呼吸装置を使わざるを得ません。わが国の健康保険では人工呼吸装置の使用に期限がありませんので治療費を払う限り生涯使い続けることは可能です。人工呼吸装置はすべて外国製ですので、レンタル料は高価な上、毎月の通院が必要となり、仕事を休んで通院する費用もかさみます。ダイエットをして減量すれば、治療費が安く通院の回数も少ないマウスピース治療が可能となります。
次の問題は治療しても残る眠気、すなわち残遺眠気です。

このグラフは37名の方の睡眠時間と体内時計のずれを調べたものです。実際の睡眠時間より体内時計が遅れている人を赤の三角で示してありますが、このような人に異常な眠気が残ることがわかりました。
眠気は睡眠の質ばかりでなく、睡眠時間や体内時計にも影響されます。いびき症の治療では睡眠の質を改善するばかりでなく、睡眠不足にならないとか体内時計を狂わせないとか睡眠衛生学の知識を理解して実行しなければ良い結果には繋がりません。

多様化した現代社会には、夜間労働とか交代勤務とか、もしかしたら導入されるかもしれないサマータイムとか、睡眠時間や体内時計を維持するのが困難な状況が多々あります。
近年いびき症の治療を通して、個々の患者さんに合った睡眠衛生学的指導を行っております。いびきや睡眠で悩んでおられる方は、専門医にご相談されるのをお勧めします。

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